それは、ずいぶん昔のこと。夕べからの風がビュンビュン吹いていました。時々草も木も立っていられないほど、強く吹き荒れます。
その台風の中を一匹の白蛇が、山奥へ逃げようとしています。山里の部落をふりかえりながら………。あれは、死期のせまったあえぎなのでしょうか。吐く息にも力がありません。片方の開いた目から、きらりと光るものを浮かべ、又動いて行きます。
昔、坊主山のてっぺんに一本のあかだもの木が天を突き抜くように立っておりました。
何百年も生きてきた老樹の貫祿は、威厳に満ちており、いつも里の様子をじっと見つめております。
このあかだもの木に一匹の白蛇が住みつくようになりました。もともとこの蛇は、その肌の白さ故に、仲間から相手にもされず、孤独に生きてきましたが、死ぬまでに一度広々とした原野を散策したいものだと、山奥からやって来ましたが、寄る年波に勝てず、ここにたどり着くと、もう里の原っぱに行くのが大儀になり、あかだもの根元のほこらを寝ぐらと決めました。ふだんは、出歩くこともなく、めったに人目にふれることもありませんが、或る日あまりの陽気さに外に出て長々と寝そべって全身にやわらかい陽ざしを当てていました。
その時にふき取りにやって来た定三は、その白蛇につまづいてしまいました。びっくり仰天、持っていた鎌で頭めがけて切りつけると、ほうほうのていで逃げ帰りました。
菜の花が咲き、麦の穂が波打つ頃から、山里の部落に不幸が続出するようになりました。
良太は病気を苦にして納屋で自殺する。吉造は馬に蹴られて内蔵破裂で死ぬ。姑と意見があわず家を出て行方不明だったかよは水死体で見つかるといった具合で、人々は皆いずれは我が家にも不幸が舞い込むのではないかと、不安になってきました。「何のたたりだ。」とさわぎ出した頃、あかだもの白蛇のことが、口にのぼるようになりました。
「それに違いない。お祓をするのじゃ。」古老の言葉に従って、みんなは、あかだもの木に集まりました。幹に太いしめ縄を巻き、沢山のお供えをし、柏手を打ちました。山のてっぺんから里へ向って塩をまいて、家内の安全をお祈りしました。
二百十日が過ぎ、祭り太鼓が消えた日の夕方から、台風が襲って来ました。
人々は家が飛ばされはしないかと心配でまんじりともせずに夜の明けるのを待ちました。風がいくぶん弱まって部落中を見渡すと、どの家もたいした被害はなさそうですが、みんな“あっ”と息をのんで一様に坊主山を指さしました。あかだもの大木が姿を消しているのです。
申し合わせたように山のふもとに集まり、風をついて隊列を作って登って行きました。ポッキリ折れた根元に、赤い血のにじんだしめ縄に蛇の抜けがらがからみついて白くゆらいでいました。
風が凪ぐと雨になって来ました。その中を身をまるめて白蛇が休んでいます。もう動けないかも知れません。「何の因果じゃ。」かすかな息づきが最後になりました。
注
今の万景閣の下の方にある坊主山に先住民の遺跡が発見されております。
あかだもの木は古い神社の境内にあったものです。
皆さん、『あかだもと白蛇』いかがでしたか?。
次の民話はどぶろくと駐在です。お楽しみ下さい。
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