橋姫さまのお話


『橋姫さまのお話をしてやろうかなあー。』と、仙吉のおばあさんが孫達にいっていました。

『橋姫さまってどんなお姫さまなの。』

『橋姫さまはなあー。橋を守る神さまだよ。』

おばあさんは、豆を選びながら話を始めました。

それは、それはずっと昔のことだった。道路といっても原始林の中をただ大きな木を切り倒し、背丈より高い根まがり竹を切って片よせしたのが道路だった。

小さな川には、2、3本の大きな木を丸太のまんま岸から岸にかけ渡してあるのが橋だったし、大きな幾春別川や幌向川には、特別に渡し舟があったけれど、どこにもあるわけがないので、そんな時には、向こうに渡るのにずいぶん回り道をしたものだった。

そんな大きな川でも水の少ない時には、両岸から丸太を切り倒して渡っていたが、そんな丸太橋は、一寸と雨が降ると流れてしまうので、村人たちは立派な橋を架けたいものだと相談をしたんだよ。

何回も何回も相談したあとで、いよいよ橋を架けることに話がまとまって、村の人々は、みんな力を合わせて工事をすることになったのだよ。

工事の前にみんなは、土を盛り、御幣(ごへい)を祀り無事を祈りました。

『ごへいってなんなの。』

『ごへいというのは神様が悪魔を払うもので、この位の木に、紙幣(かみしで)をつけたものだよ。

神社でおまいりをする時に、お祓いをするじゃろうが、あの時のお祓いがそうだよ。』

『そこでいよいよ工事が始まったんだね。』

そうじゃ。工事が始まってなあー。

木を切り出す人、道路を新しくつけかえる人、土を運ぶ人、土留杭を打ち込む人など、毎日毎日忙しい日が続いて、そのうちに川の中に橋杭を打つことになってなあー。男も女も、ドンツキ唄にあわせて綱を引いたのう。

エンヤコラヤのヤーイ、ドン。

モヒトツオマケニヤーイ、ドン。

と、声をあわせてなあー。

お蔭で3カ所の橋杭打ちも終っていよいよ桁を渡すことになって、その桁も、橋杭の上でつぎあわされて向う岸まで届いたんだよ。

『さあ。もう少しで出来るぞ。』

『あとわずかになったなあー。』

『これまで出来たら、もう出来上がったも同じことだ。』

『おいら一つ、桁を渡って向う岸まで渡るべー。』

と、何人かが桁の上を、スイスイと上手に渡ったんだよ。

『渡った。渡った。明日からは丸太敷だ。』

と、いって村人たちが喜んで家に帰ったその晩から、大雨となってなあー。

翌朝、村人たちが心配して集まって来たが、その時はまだ川水も半分位までしか増えていなかったので

『これで雨が止んでくれたら大丈夫だ。』

と、みんな家に帰ったが、雨は一向に止まずに翌日もまた雨降りだった。

今度は、川水はずっと岸の上の方までふえてにごった泥水が、ドウドウと音をたて、時々大きな木が、ドンドン流れてきて橋杭にドシンとぶつかるので、その夜とうとう橋杭もろともせっかく渡した桁もみんな流れてしまったのだよ。

村人たちは、ガッカリしたが、みんな何としても橋が欲しいので、また工事をすることになってなあー。

今度は、前以上に長い木を橋杭に使い、太い桁をかけたところ、その晩から又雨が降ってきたので、村人たちは今度は大水でも流れないようにと、太い綱で岸の大きな木にしばりつけたが、やはり翌朝にはその綱が切れて流れてしもうた。

『どうしたものだろう。何かタタリがあるのではないだろうか。』

『昔から橋をつくる時には、人柱をたてるという話があるが、ここもそうせにゃならんのだろうか。』

などと噂をしていたそうな。

そんな時、

『タタリなんぞあるはずはない。だが昔から橋の工事をして、橋が出来た時にはお礼にお宮をつくってお祀りをするということだから、今度は先にお宮をつくってお願いをしたらよいではないか。』

と、ある老人がいったので、それは良いことだと村人たちは、出来上がる橋のそばの広場にお宮をつくり、お祭りをして無事に橋が出来るのをお願いしたのだよ。

さて、3度目の工事が始まると、毎朝みんながそのお宮にお願いをしてから仕事をし、仕事が終わると一日のお礼をして帰り、時には畑からとれた野菜を供えたり、ある時は果物や餅などもお供えしたこともあったとな。

そのうちに橋杭打ちも終り、桁も渡し、

『神様。今度こそ橋が出来ますようにお願いします。』

と、みんながお願いして帰ったが、村人の何人かが心配のあまり夜中に川の様子を見に来たのだよ。すると、お宮の前に美しいお姫さまが立って、今日渡した橋桁の上を向こう岸に歩いて行ったそうな。

そして、今度は向こう岸から渡ってくると、スウーとお宮の中に入ってしまいました。

見ていた村人たちは、ビックリして思わず土の上に座り込んでお宮の方を拝んだのだよ。この話を聞いた村人たちは、神様がお守りして下さったからもう大丈夫だと一生懸命精を出して働いたので立派な橋が出来上がったのだよ。

それからは、そのお宮を橋姫さまのお宮といってみんなが毎日おまいりに行くことになったというぞい。

今でもなあー。あちこちの橋のたもとに小さなお宮があって、そのお宮のお姫さまが橋を守っているのじゃから、お宮におまいりしてから橋を渡るのだよ。

と、お婆さんが子どもたちに話していました。





皆さん、『橋姫さまのお話』いかがでしたか?。
次の民話はまわり道をした線路です。お楽しみ下さい。

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