ひよっとすると爺さん


仙吉の隣の、新吉のおばあさんから聞かされた話だがと、もうひげの白くなった新吉爺さんが仙吉の孫たちに話していました。

それは、岩見沢がまだまだすっかり開けていなかった頃の話だといいます。

土地の良い所を捜して開墾し、僅かばかりの畑をたがやして、いも、カボチャ、麦などをつくっていたといいます。

お天気まわりが良い年はみいりも多くあったが、そうでない年は翌年の秋までの食べるものにも困ることが珍しくなく、そんな年には村の人々は蕗、わらび、又、うばゆりの根まで掘って貯えたということでした。

そんなある年、大変お天気まわりの良い年にあたって、麦もたくさんとれ、その後に蒔いたそばもいつもの年よりたくさんとれるという豊作の年があった時のことでした。

西の方で開墾していた家の爺さんが、会う人ごとに

『いや今年は豊作でええ年だった。わしのところではいつもにない程とれるようだ。』

と、嬉しそうに話しかけ、

『いや、本当に良かった、良かった。来年も又よいみのりになるよう一生懸命働こうよ。』

と、いい、

『爺さんのところではどの位とれたかい。』

と、聞くと、

『そうさァーなあー。わしのところでは、ひよっとするといつもの倍近くはとれたかもしれん。』

『爺さんのところではそんなにとれたとは、ええことだなあ。』

『いや。五作どん、一寸まってくれよ。いつもの倍近くもとれたといったが、どうかすると間違いなく2倍近く、いや、ひよっとするともっと、とれたかなあー。

いやいやまてよ。あそこの出来が良かったから、もしかすると、もっとあるかも知れん。ひよっとしたら2年分以上はとれたかも知れんぞ。』

と、爺さんの話にはきまって、「ひよっとしたら」「ひよっとしたら」といいながらだんだんと増えるのだそうです。そして、そのたびに、はじめ小さめに手を振っていたのが次第次第に大きく振って、

『そうさなあー。ひよっとするとこの位はとれるだろ。』

と、大手を広げていうので、いつからか、ひよっとすると爺さんとみんなが呼んでいました。

『その爺さんの名前は何というの』

と、聞くと

『さあーて。何という人だったやら。村の人はみんなひよっとすると爺さん、と呼んでいて名前は聞いたことがないなあ。』

『お爺さんも知らんのかい。』

『そうさなあ。よう知らんが、ひよっとすると思い出すかも知れんぞ。』

と、いいました。

『お爺さん。その、ひよっとすると爺さんのまねをしてごらんによ。』

『どれ。そいでは、ひよっとすると爺さんのまねをしてみるかなー。こないだのう。ポントネ川に釣りに行ったらこの位の魚が釣れたぞ。

いやまてよ。上げた時には小さく見えたが、良く見ると6寸(18センチ)位はあったかな。いやいや。もっと大きかったかなあ。ひよっとすると7寸(21センチ)か。いやまてよ。ひよっとすると8寸(24センチ)から9寸(27センチ)いや、ひよっとすると1尺(30センチ)はあったろうが。もう少し大きかったかなあ。

そうじゃ。あれは鯉じやったから間違いなく1尺2寸(40センチ)はあったろう。』

『やあーい、お爺さん。そいでは初めの2倍にもなったよ。』

『そうだ。お爺さん。ひよっとすると爺さんは、お爺さんのことでないの。』

『わしが、ひよっとすると爺さんか。うむ。ひよっとするとそうかも知れんなあー。あつはつはつ。』

と、新吉爺さんは大きな声で笑いました。





皆さん、『ひよっとすると爺さん』いかがでしたか?。
次の民話はわたりどりものがたりです。お楽しみ下さい。

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