今朝も早くから、一人のおじいちゃんが、ガチャガチャ棒で排水溝をつき、「ほう、ほう」といいながら、どじょうを追っています。
バケツの横には、あいかわらず焼酎の入った一升びんが置かれています。
ふらつきながら、網を上げると、沢山のどじょうがピチピチ朝日にきらめきます。
ひどじょう(赤どじょう)も何匹かいます。
このじいさんの本当の名は、誰もはっきりわかりませんが、みんなは「追い松」あるいは「追い松のあん」と呼んでいました。姓の一字に松の字があり、毎日どじょうを追っているので、こんなよび名になったのでしょう。
まだ、そんな年ではありませんが、ふけて見え、格好はまるで年寄りです。
酒好きの彼は、どじょうを売っては、酒にかえて飲んでいます。
学校へ行く子どもらが、道ばたの草の中で酔っぱらって寝ている姿を見かけ、
「追い松っあん、どじょうがみんな逃げちゃうぞ」
「追い松じいちゃん、蚊に喰われるぞ」
といって、通ってもびくともしません。
昼過ぎ、その子どもらが学校帰り、まだ酔っています。
彼は
「おれは万字線を作った」
が唯一の自慢の口ぐせでした。
事実、彼は万字線路を布設する時の土工夫でしたが、これが完成すると、もう土方をする気がなくなりました。
もともと働いただけ飲んでしまうたちですから、早くに妻子に逃げられ、一人ぽっちですから、気楽なものです。
土方の飯場が次の現場へ移動になっても、彼は小さな小屋を駅の裏側に建てて、住みつきました。
寝る時は、農家からもらった古い長もちの中に入って、わらにくるまって寝ますので、ふとんもありません。
その頃から、この辺は今までの畑が水田に変わってきました。
用水路が通り、排水溝に水があふれ、沢山の魚が泳ぐようになったのです。
追い松は、このどじょうに目をつけました。
根気よくとると、かなりのお金になりました。
彼はバクチは好きなんですが、今だ勝った事がありません。
いつも、みんなのかもにされます。
彼は、どうもしゃくです。
ある日、どじょうをふところに入れて、でむきました。
あんのじょう、まけこんできたころあいをみて「おっ、そこにねずみが走ったぞ」追い松がとんきょうな声をあげました。
みんな、指さす方に目を向けると、彼は一匹のどじょうを座ぶとんの上に出しました。
「ねずみなんかおらんぞ」
ガヤガヤいいながら、みんなが視線をもとにもどすと、太いどじょうが花札の上を、のたうちまわっています。
「追い松か!このどじょうは!」
大さわぎですが、誰も手を出しません。
「そんなら、今日、ふんどしにもぐり込んだやつかも知れんなヘッヘッヘッ………」
しゃあーしゃあーとして、そのどじょうをつかみ上げると、一息に、頭の方から、「スポーン」とのみこんでしまいました。
みんな、あっけにとられていました。
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今夜のバクチはこれでお開きになりました。
皆さん、『追い松物語』いかがでしたか?。
次の民話は馬喰物語です。お楽しみ下さい。
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